孫子の兵法を現代経営に活かす(第四回 孫子の兵法体系図と全体の概要)

番は前後してしまいましたが、今回は孫氏の兵法の全体を表す体系図(筆者作成)について説明します。

孫子の兵法は十三篇で構成されており、大きく4つに分類され、「用兵の法(第一篇~第三篇)」の大原則、「用兵原則(第四篇~第七編)」の応用、「応用(第八篇~第十二篇)」の臨機応変、「用間の法(第十三篇)」の間者(スパイ)の活用となる。


孫子の兵法体系図(筆者作成) Rev1.0


【用兵の法 第一篇から第三篇】
第一篇から第三篇(用兵の法)までは孫子の兵法の要諦であり、ここだけでも孫子の兵法の全体が理解できる。本投稿でも第一回、第二回で説明したが、原則戦争は回避する方向で考え、やむなく戦争を行うならば、五事・七系・詭道(敵を欺く)を中心に廟算(先祖に報告)し成否を事前に見極め、勝てるなら戦争を行うということである。
ただし、五事・七計・詭道を行うにも「情報」が必要である。これは最終篇の第十三篇の用間篇に記述されているが、孫子の兵法の時代(それ以前)でも間者(スパイ)がもたらす情報こそが、戦略・戦術を立てるうえでの基礎であり、間者を上手く使うこなすことが成功性を高めることである。現代経営でも情報(IT・DX)は重要であり、うまく使いこなすことが事業の成長につながるのである。

兵は国の大事なり、死生の地、存亡の道、察せざるベかざるなり。故にこれを経るに五事を以てし、これを校(くら)ぶるに計を以てして、其の情を索(もと)む。

金谷治「新訂 孫子」、岩波書店、2001年1月16日、26項

夫(そ)れ未だ戦わずして廟算して勝つものは、算を得ること多ければなり。未だ戦わずして廟算して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きものは勝ち、算少なきは勝たず。 而(しか)るを況(いわん)や算なきに於いてをや。吾れ此れを以てこれを観るに、勝負見(あら)わる。

金谷治「新訂 孫子」、岩波書店、2001年1月16日、33項

彼を知りて己を知れば、百戦して危からず。

金谷治「新訂 孫子」、岩波書店、2001年1月16日、52項


【用兵の原則 第四篇から第七篇】
第四篇から第七編は用兵の原則であり、やむなく戦争に発展する場合について原則論を展開している。

第四篇(形篇)は守備を固めることで不敗の体制づくりを行い、その後勝てると確信してから戦争を行う

第五篇(勢篇)は「勢」という実力以上の力の発揮方法、その効果などによって優位に立つことの重要性を説いている。

第六篇(虚実篇)は自軍を有利にすることで敵を思いどおりに動かすこと(人を致して人に致されず)、自軍の「実(充実)」で敵の「虚(隙)」を突く虚実の重要性などを説いている。

第七編(軍争篇)は軍(戦場)に敵よりも先に着陣することで、戦争を有利にする重要性を説いている。ここでは、「迂直の計(回り道をしているようで最短の道を進み敵の裏をかく)」や「風林火山陰雷」などがある。風林火山は第三回の投稿でも書いたが、武田騎馬軍団の旗印の「侵掠(略)すること火の如く」から想像する、騎馬軍団で敵を蹂躙する勇ましさというよりは、迂直の計によって敵にわからないように着陣するために火の勢いの如くさっと陣を取るという意味である。

激水の疾(はや)くして石を漂すに至る者は勢(せい)なり。鷙鳥(しちょう)の撃ちて毀折(きせつ)に至る者は節なり。是の故に善く戦う者は、其の勢は険にして其の節は短なり。勢は弩(ど)を彍(ひ)くが如く、節は機を発するが如し。

金谷治「新訂 孫子」、岩波書店、2001年1月16日、68項

孫子曰く、凡そ先きに戦地に処(お)りて敵を待つ者は佚(いっ)し、遅れて戦地に処りて戦いに趨(おもむ)く者は労す。故に善く戦う者は、人を致して人に致されず。

金谷治「新訂 孫子」、岩波書店、2001年1月16日、74項

故に兵は詐(さ)を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為すものなり。故に其の疾(はや)きことは風の如く、其の徐(しずか)なることは林の如く、侵掠(しんりゃく)することは火の如く、知り難きことは陰の如く、動かざることは山の如く、動くことは雷の震(ふる)うが如くにして、郷を掠(かす)むるには衆を分かち、地を廓(ひろ)むるには利を分かち、権を懸けて而して動く。迂直(うちょく)の計を先知する者は勝つ。此れ軍争の法なり。

金谷治「新訂 孫氏」、岩波書店、2001年1月16日、94項


【応用(臨機応変) 第八篇から第十二篇】
第八篇から第十三篇は状況に応じて将軍が臨機応変に対応するためのことが書かれている。なお、第八編から第十一篇までは、地形、将軍、兵などの戦術における注意事項や原則論が展開されており四つの「篇」を一つの塊として理解すると良いと考える。


第八編(九変篇)は九つの「変(思いがけないトラブル)」について原則論、対処方法などが書かれている。
第九篇(行軍篇)、第十篇(地形篇)は戦場に赴く、行軍時の原則や地形に対する知識や対処方法が書かれている。
第十一篇(九地篇)は九つの地域(戦場)の特徴に応じた戦い方が書かれている。
第十二篇(火攻篇)は火攻めの狙いを五つに分け、天候(風)など一定の条件が揃ったうえで実施することを説いている。

三国志の「魏」の国を治めていた曹操は孫子の兵法を独学し、自らの訳文を作ったともいわれるが、その曹操が何と「赤壁の戦い」で「呉(孫権の治める国)」、「蜀(劉備の治める国)」連合軍に火攻めで敗戦している。その連合軍の勝利の裏には蜀の軍師の諸葛孔明の存在があり、まさに孫子の兵法にもとづいて天候(風)などの条件が揃ったうえで決行したのだった。もし曹操が火攻篇をもう少し理解していたら、火攻めは防げたかもしれない。

【用間の法 第十三篇】

第十三篇(用間篇)は間者(スパイ)の活用についてである。本篇は最終にあるからといって、重要性が低いということはなく、全ての篇に関連することもあり逆に重要な篇なのである。五事・七計・詭道でもその元となる情報は間者がもたらすものであり、戦場での敵情報や地形情報も間者がもたらすものが元である。これは現代経営でも「情報」の重要性は言わずと知れたものであり、「情報を制する者は世を制する」といわれるほどである。