孫子の兵法を現代経営に活かす(第六回「孫の二乗の法則」)
孫子の兵法はシンプルであり普遍的な内容であることから三国志で有名な魏の国の曹操、武田信玄など歴史上の人物や、現代の経営者などがそれぞれの解釈で国やビジネスの指針等で活用しています。第六回はその一例としてソフトバンク会長の孫正義氏が考え出した孫の二乗の法則(兵法)を紹介します。
①孫の二乗の法則(兵法)とは
孫正義氏は若いころに大病を患い、その病床の中でこの孫の二乗の法則を考え出したという。孫の二乗とは、孫氏の「孫」と孫正義氏の「孫」を掛け合わせ(二乗)、縦横5文字ずつ25文字構成にしたものである。その一文字一文字が孫正義氏の思いとして意味を持っていることと横5文字づつが、それぞれ「理念」、「ビジョン」、「戦略」、「将の心得」、「戦術」と体系的に作り上げられている。
(出所)『新版 孫の二乗の法則』 (板垣英憲、PHP研究所) より筆者加筆
②孫正義氏の解釈について(一部)
以下、いくつか取り上げ紹介をしていく。
(道天地将法)
孫子の兵法での政治のあり方(有道)を孫正義氏は理念・志と説いている。
(頂情略七闘)
孫正義氏オリジナルであり、「頂」は山の頂から見渡した景色、つまりビジョンを鮮明に思い描くということである。「七」は七割の勝算を見極め勝負に出る。この勝算について孫正義氏は、九割では遅い(他社に取られてしまう)、五割では勝負に出てはいけないと説いている。つまり孫子の兵法「算多ければ勝ち、算少なければ勝たず」の具体的な数(マジックナンバー)を明確にしたものである。
本投稿「孫子の兵法を現代経営に活かす(第二回 算多きは勝ち、算少なきは勝たず)を参照いただきたい
(一流攻守群)
孫正義氏オリジナルであり、「一」は一番にこだわる(二番以降は敗北と同じ)で一番になれる分野にしか手を出さない。「群」は単一ブランドで勝負しない。ソフトバンクは通信分野で「SoftBank on Line」、「ワイモバイル」、「SoftBank」と3つのブランドで事業を進めている。単一ブランドではそれが行き詰まったときに終わってしまうため、「群戦略」でリスク分散・回避も必要ということである。しかし、それぞれが共食い(カニバリゼーション)になるかというとそういうわけではない。それぞれ利用者の容量等に合わせラインナップをしている。
(智信仁勇厳)
孫子の兵法での将の要素(有能さ)である。このなかで孫正義氏が説く、「勇」に着目したい。「勇」とは勇ましく戦うということもあるが、撤退する勇気も重要だということである。孫正義氏は撤退は十倍の勇気がいるといっている。その勇気を持つことで会社を守る(損失を拡大させない)ということである。
(風林火山海)
孫子の兵法での第七篇軍争篇の中にある「風林火山陰雷」を孫正義氏が解釈したものである。孫子の兵法での「風林火山」については誤った解釈もあるため、参考までに前回投稿した「孫子の兵法を現代経営に活かす(第三回 風林火山)を参照いただきたい。さて、「海」であるが、これは孫正義氏のオリジナルであり、風林火山で戦った後を考えなければならないということである。風林火山は戦術として取り上げているが、孫正義氏は最後に「海」を付け加え二乗の法則の締めとして、すべてを終わらせ完結、平定させると説いている。まさに「道」の理念・志から始まり「海」の完結・平定で終わるという首尾一貫した流れが出来上がっているのである。