外部環境分析(ミクロ環境) 5フォース分析
今回は5フォース分析を取り上げたいと思います。これは5つの脅威や競争要因とも呼ばれ、1980年代にハーバードビジネススクールのマイケルE.ポーター教授が提唱した理論です。ポーター教授は競争戦略論では世界的に有名で、未だに経営学特に戦略論では必ずと言っていいほど登場します。特に外部分析の5フォース分析や内部分析のバリューチェーンモデルなどのフレームワークは40年以上経った今でも多くの人に活用されています。
ポーター教授は著書「[新版]競争戦略論Ⅰ」で”競争はどこで起こっているか”に対して、こう答えています。
戦略担当者の仕事は、突き詰めれば、競争を理解し、競争に対処することである。その際、競争を狭く定義して、いま直接対峙している企業との間で起こっているものだけを競争と見なす過ちを犯しがちだ。しかし、利益をめぐる競争は、「業界内のライバル企業」という範囲を超えて、「顧客」「サプライヤー」「将来の新規参入者」「代替品」まで広がる。これら「五つの競争要因(ファイブフォース)」によって拡張された競合関係によって、業界の構造と競争の性質が決まる。
マイケルE.ポーター 「[新版]競争戦略論Ⅰ、ダイヤモンド社、2018年7月18日、37項
上記から、ポーター教授は競争はライバルだけを意識するだけではなく、顧客を含めた業界全体を範囲として分析をする必要があると説いています。では具体的にどのように業界全体を分析するのか、そのフレームワークを紹介したいと思います。
(5フォース分析のフレームワーク)
(新規参入者の脅威 -競争要因1)
新規参入の脅威は、参入者が業界とは別の能力を持ち込み、市場シェアを奪取しようとします。これは参入者が多角化を図ることによって、業界内への影響をもたらすことがあります。例えばマイクロソフトがインターネットブラウザーを提供し始めた時やアップルが音楽配信事業(業界)へ進出したときがあります。これは既存業界へ大きな脅威となり、参入を阻止するため値下げや投資を増やすなどの措置が必要となり、その業界が持っている潜在利益に上限を作るといわれています。つまり参入者を抑えるために値下げなどを行うと価格競争が起こり利益が減少するということです。ただし業界内に財力も影響力も大きい企業が存在する場合、逆に既存企業からの反撃もあります。日本では90年代後半にエアドゥなどLCCの参入によって航空運賃が下がりましたが、すぐに大手3社も価格を下げるなどの反撃を行い、エアドゥは経営破綻に追い込まれANAの支援を受ける結果となりました。とはいえ私たち消費者からは、この参入によって航空会社の選択の幅が広がり旅行やビジネスにおいてより安い航空会社を選択するメリットを享受することができました。
ポーター教授は新規参入が既存企業からの反撃を恐れる可能性としてために以下を記しています。
◉既存企業が新規参入者に対して猛烈な反撃に出たことがある場合
◉既存企業が反撃のための資源を潤沢に持っている場合。たとえば余剰資金、融資枠、潜在能力、流通チャネルや顧客への影響力など
◉既存企業が、いかなる犠牲を払ってでも市場シェアを守りたいという理由で、あるいは、固定費が高い業界であるがゆえに生産能力をフル稼働させる必要があり、値下げに踏み切る可能性が高い場合
◉業界の成長スピードが遅く、既存企業から削り取らなければ必要な販売量を確保できない場合
マイケルE.ポーター 「[新版]競争戦略論Ⅰ、ダイヤモンド社、2018年7月18日、48項
(サプライヤーの交渉力 -競争要因2)
サプライヤーの交渉力は「供給者の支配力」ともいいますが、サプライヤーが販売先(仕入先)の数よりも少ない場合や提供する商品やサービスが1社しかなく独占状態の場合は、その交渉力が強くなります。PC業界ではたくさんのメーカーがOSではマイクロソフト社を採用しているため、マイクロソフト社の独占状態でした。よってマイクロソフト社はOS価格を上げることとなり、結果PCメーカーの収益性が落ちたこともありました。そのほかにスイッチングコスト(サプライヤーを変えること)が高い場合や製薬会社などの特許や差別化の度合いが高い場合もその交渉力が高まります。
またポーター教授は、業界内企業が大きな利益を上げており、サプライヤーグループが業界の川下統合し市場参入(業界へ入ってくる)する可能性がある場合も交渉力が高まるといっています。これは業界がサプライヤーよりも儲けていることに対して、販売先へ直接販売するために参入を匂わしたり、実際に参入してくることです。
◉サプライヤーの数 < 買手側の数
◉買い手側のスイッチングコストが高い場合
◉サプライヤーが差別化度合の高い商品やサービスを提供している場合
◉代替品がない場合
◉サプライヤーが川下統合する場合(業界に参入してくる)
(買手の交渉力 -競争要因3)
買手の交渉力は、買い手側が業界に対して値下げや品質、サービス向上を求め業界の収益性を押し下げます。買手の交渉力が高まる要因としては、大量購入する、多くのサプライヤー(買い手から見た場合の自社)が存在し商品・サービスが標準化している(スイッチングコストが低い)、買い手の価格感度が高い、などがあります。例えば、PCメーカーがPCを家電量販店に大量に販売している場合、大口の買手である家電量販店の交渉力が高くなる場合があります。具体的には大量購入による値引きや独自の仕様やサービスを求めることです。また物などを製造し固定費が高い業界は、製品の値引きをしてでも販売し、固定費を回収しようとする動きとなるため結果的に業界の収益性が押し下げられてしまいます。
◉買手(自社からみた販売先) < サプライヤー(業界)や買手が大量購入する場合
◉サプライヤーの固定費が高い場合 ※値引きしてでも機械を稼働させ販売する(少しでも固定費を回収する)
◉業界の製品が標準化されている場合 ※買手のスイッチングコストが低くなり競争させられたり、乗り換えされる
◉買手が川上統合する場合(買手が購入する製品を自ら製造するなど)
(代替品の脅威 -競争要因4)
代替品の脅威は、業界の製品・サービスと同等もしくは類似のものを投入しシェアを獲得してくることです。例えば年賀状(手紙)からメールやLINEなどSNS、レンタルビデオからビデオオンデマンドサービス、プラスチックからサスティナブル素材(紙や木材など)、ジェネリック医薬品などがあります。業界はこれら代替品が既存の製品・サービスのコスト(コストが高く見える)や相対的価値(代替品と比較)が低下することで業界の潜在利益は抑え込まれます。
経営者(戦略担当者)は他業界、事業環境、地球環境の変化によって代替品の脅威が常に高まっていることを意識しながら、自らもイノベーションを起こしていく必要があります。
◉代替品によるコストパフォーマンスのトレードオフが発生する(既存から代替品)
◉スイッチングコストが低い場合、代替品が脅威が高まる
(既存企業間の競合 -競争要因5)
既存企業間の競合は、価格や新製品・サービス投入などで展開され、その加熱によって業界の収益性が制限されます。収益がどのくらい抑え込まれるかは、第一に企業間競争の激しさの程度、第二にどのような面で競争が行われるかによって決まるといわれています。
競争が激しくなる場合は以下となります。
◉ライバル企業の規模、影響力がほぼ同等である場合、お互いの事業を奪い合うようになり、さらに業界リーダーがいないと業界全体によって望ましい慣行が徹底されない
◉業界の成長率が鈍い場合。低成長はシェア争いに拍車をかける
◉撤退障壁が高い場合、低利益、赤字であっても経営陣の思い入れや様々な理由で業界に残っている場合、結果的に撤退障壁が高まり、いわゆる病んだ企業によって健全な競合他社の収益性も落ち込む
◉ライバルが業界のリーダーを握ろうとしてパフォーマンス以上の目標を設定している場合。例えば、威信、イメージアップ、個性追求などによって競争が過剰になり収益性が損なわれる
◉互いをよく知らない場合、他社が発しているシグナル理解できない
さらに、価格競争が起こりやすい場合は以下となります。
◉ライバル同士が同じような製品やサービスを提供しており、買手のスイッチングコストが低い場合(乗り換えされやすい)は顧客獲得のために値下げに踏み切りやすい
◉固定費が高く限界費用が高い場合、少しでも顧客や固定費改修をするために価格を平均費用以下までに下げてしまう
◉効率化を求めるために生産能力を増強する場合、過剰生産などによって業界内の需給バランスが崩れ値引きが発生する
◉製品が陳腐化した場合、値引等によって価格競争に陥る。PC業界や足が早い食材やホテルの部屋(利用していない部屋)など
上記は一例ですが、既存企業間の競合は、業界の特性や業界内の企業の動きによって時に競争が過熱し、その結果価格競争に陥る場合があります。
さて今回はマイケルポーター教授の5つの競争要因(5フォース分析)を取り上げましたが、競争は競合のみの活動だけではなく、新規参入、サプライヤー、買手、代替品も分析しなければなりません。それによって業界構造や業界の収益性の高低が分かり、企業の取るべき戦略が見えてきます。
次回は外部分析(マクロ環境) PEST分析を取り上げたいと思います。