医療分野におけるDX事例について
デジタル技術によって、自社だけでなく社会課題を解決する術としてDXが様々な業界・分野で活用されており、本投稿で取り上げたいと思います。
そこで今回は、医療分野におけるDXの事例として、手術支援ロボット「da Vinci Surgical System(ダ・ヴィンチ)」、「hinotori(ヒノトリ)」を取り上げDXとの関係を説明したいと思います。
1.手術支援ロボットとは
まず、手術支援ロボットがどういったものなのかですが、簡単にいうと遠隔操作で場所を選ばず外科手術(すべてではない)ができるロボットです。特徴として、以下が挙げられます。
・遠隔操作ができる
・傷口が小さく(出血が少ない)回復が早い
・ロボットの支援によって手振れの制御を行うことで手術レベルを向上
など、患者と医師の負担軽減が図れます。
2.手術支援ロボットが開発された背景
手術支援ロボットが登場する前は、術者の技術に頼り外科手術を行っていましたが、患者と術者が同じ場所にいなければならないことや人間の目では得られない角度からの視野確保などの課題がありました。それらを実現するために、IoTや3D技術などを活用した手術支援ロボットが開発されました。
その手術支援ロボットですが、1999年にインテュイティブサージカル社(米国・カリフォルニア州)が開発した、「da Vinci Surgical System(ダ・ヴィンチ)」に始まり、手術支援ロボットの代名詞として、世界の医療市場をけん引し独り勝ち状態でした。その後、約20年が経過し2020年に国産初の手術支援ロボットとして「hinotori」がメディカロイド社によって開発されました。
hinotoriの基本的な機能はダ・ヴィンチと変わりませんが、ダ・ヴィンチがアメリカの医療現場を想定しており、ロボットアームの大きさが日本人に合わないことや価格が最新版では約3億円と高額という問題がありました。そのような中、hinotoriは日本の医療現場を想定し開発され、価格も1億円台です。まさに、自動車に始まり日本の得意である改良技術を駆使した国産手術支援ロボットの登場となりました。
3.手術支援ロボットとDXの関係
どちらもロボット技術、IoT、3D、遠隔操作など従来からあるデジタル技術を組み合わせたものにすぎませんが、これがどのように医療分野のDXに活かされているかということを経済産業省のDXの定義注に照らし合わせると以下のようになります。
①医療分野における社会課題
・遠隔手術による患者と術者の負担軽減
・手術機会の増加
・医療技術の発展と向上
②主なデジタル技術
・IoTによるロボットの遠隔操作
・3Dカメラによる患者の体内を立体画像で生成
・最大15倍の拡大視野(ダ・ヴィンチ)
③変革
・患者と術者の身体、メンタル面での負担軽減
※遠隔手術支援による移動の負担軽減も含まれる
・術者の技術力のバラつきを抑え手術支援の機会を増やす
・手術支援ロボット分野における新たな知見と競争力強化
※ダ・ヴィンチの特許切れによる様々な企業での開発競争が生まれるメリット
4.まとめ
今回は、手術支援ロボットをDXの事例として取り上げましたが、2019年のダ・ヴィンチの特許切れによって、hinotoriのような日本企業の巻き返しが起こり、産業内競争力も高まりました。その結果、価格低下で医療機関の導入も進み、ロボット手術機会の向上と身体的、メンタルの負担軽減が図れました。
まさに、私たちの健康を支える医療分野でも着々とDXを活用した変革が行われているのではないでしょうか。
【用語説明】
(注)済産業省はDXを 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」 と定義しています。